「ぼくらはみんな、恋をする」ちょっぴりアフター
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提案:pekoe 監修:陣内



 天気が良くて、本当に良かった。
 昨日までの春の雨が、ウソのように晴れ渡っている。
 清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んで、山吹琴耶は懐かしい土地をひとり歩いていた。
「たまに遊びにもきてたのに……改めて見ると、色々と景色が変わってる」
 運命的な再会を果たした道端も、アスファルトの舗装工事がされていて歩き易くなっている。
 きっと、2週間しか居なかった場所が、どこも少しずつ変わっているに違いない。
「もう着いてるかな、柳君」
 待ち合わせには、公園を指定した。
(柳君と会うのは久し振りだから、ちょっと緊張しちゃうかも)
 琴耶はひとりで笑って、公園の中を見渡す。
 柳はじめとは、クラスメイトではなかったが、友達として今もメールのやり取りをしている。
 今日は、彼と一緒に卒業式を見に行こうとしているのだ。
 はじめの大切な人、それから、琴耶の大好きな人が私立鳳稜学院を卒業する。
(伊崎先輩はともかく、おにいちゃんが卒業できて本当に良かった!)
 伊崎久貴は、学業成績は常にトップクラスの人物だ。首席で卒業、と聞いても誰も驚かないだろう。
 しかし、琴耶の大好きなおにいちゃん、鷲尾寛志は自他共に認める「忘れん坊」なのだ。
(やっぱり、伊崎先輩が苦労したんだろうなぁ……)
 体育と算数以外はまったく記憶に留めない、朗らか天然系守銭奴の寛志をどうにかして卒業試験を乗り切らせたのだろうけれど。
 クラスメイトでもある久貴が、寛志を放置するなど性格的にはありえない。
(物凄いスパルタ、だったりして)
「山吹くーん!」
 ちょうど反対側の出入り口から、小さな影が手を振って走ってくるのが見えた。
「あ、柳くぅあっ、だ、大丈夫?!」
 見事にステーンと転んだはじめを見て、琴耶は反射的に駆け出した。
 手を取って上体を起こしてやると、はじめは顔を赤くして笑みを作る。
「ご、ごめんね。大丈夫だよ」
「本当に? 擦りむいたりしてない?」
「うん、平気。僕、本当に良く転ぶから……それよりも! 山吹君、久し振りだねっ」
「あ、うん! 久し振り、柳君」
 はじめにつられて笑顔になった琴耶は、立ち上がった彼が砂埃を払うのを待った。
 在校生らしく、きちんと制服を着用している。
「山吹君の服、似合ってるね」
「え、そ、そうかな?」
「うん。僕も、普段着にしておけば良かったかな」
「そんなことないよ。きちんとして見えるから」
「そうかな」
「そうだよ」
 他愛もない会話を交わして、どちらからともなく会場である私立鳳稜学院へ向かい始めた。
「一般開放の卒業式って、ちょっと珍しいよね。文化祭みたい」
「そうだね。去年の文化祭は山吹君のほうと被っちゃって行けなかったけど、今年は行けるかなぁ」
「あはは、今年は大丈夫だよ。4月に引越しだから」
「えっ……また?」
「父さん、ワガママだから。あ、でも琴成は残るんだ」
「えっ……?」
 「えっ」という度に、大きな瞳できょとんとするはじめ。
「それって、どういうこと?」
 小動物系の雰囲気を振りまきながら、はじめは琴耶に首を傾げて見せた。
「琴成が実家を出たんだ」
「えっ?」
「えーと、石狩先輩覚えてる?」
「あ、うん……覚えてるよ。でもあの人、山吹君達が引越ししてからすぐに学校で見なくなったけど」
「あのね、琴成追いかけて編入してきた」
「えっ!?」
「しかも、「病気で入院してた」って理由つけて同じクラスに」
「えーっ!!」
「まぁね、おかげで琴成も楽しい学校生活」
「まっまま待って、待ってよ山吹君。あの、それ、それって」
 琴耶にストップをかけたはじめは、自分のことのように顔を赤くして「それはつまり」と無言で訴えている。
 はじめの反応に、なぜか恥ずかしくなってきた琴耶も、頬に熱がこもった。
「し、知らなかったっけ?」
「うん……初めて聞いた、よ」
「そ、そっか」
「あの、えっと……その、つまり、山吹さんは石狩さんと一緒に?」
「一緒に、うん。一緒に、住んでる」
「えっ……あ、いや、もう……聞かない方が、良いかな」
「えーっと、そ、そうかな……?」
 他人のことで気まずくなった二人は、同じくらい顔を赤くしたまま、そこから学院まで無言で歩く羽目になった。


「はじめ坊ちゃん」
 校門を入ってすぐのところで、琴耶も記憶にある人物がはじめに声をかけてきた。
「あ、こんにちは。胡紋さん」
(坊ちゃん? こもんさん?)
「お前は、あの時の」
 琴耶を見て、怪訝な表情になった黒スーツの男。
 過去、琴成が久貴をけしかけて琴耶を陥れようとしていた頃に見た、チンピラのひとりだ。
(わー記憶がどんどん蘇ってくるなー)
 チンピラ三人組、彼らは琴耶の写真を使って恥ずかしいアイコラポスターやビラを作ったり、編集音声の入ったCDを100円で売りさばこうとしたのだ。
「山吹琴耶、か」
「は、はい。そうです」
「あの時はすまないことをした。オレは蝶胡紋という」
「こ、こんにちは。かわひりゃ、かわひらこさん」
 噛みながら名前を呼んだ琴耶に、微妙に苦笑を浮かべる胡紋。
「胡紋で良い」
「はい、ごめんなさい……」
「胡紋さんも、卒業式を見にきたんですか?」
 構える琴耶と対照的に、はじめは気軽に声をかけている。
(この静かさが逆に凄い威圧なんだけど……良い人って思っても、良いのかな)
 はじめが警戒もせずに話しているのを見て、琴耶は胡紋に対しての認識をチンピラさん→そんなに怖くない人、と改めた。
「坊ちゃんにはくるなと言われました。ですが、坊ちゃんの晴れ舞台です。ほんの一目でも、と」
「そうなんですか。じゃあ、ここで会ったことは内緒ですね」
「そうして頂けると、助かります」
 律儀な一礼をした胡紋を置いて、はじめは琴耶の手を取り歩き始める。
「柳君、あの人」
「大丈夫だよ。あまり構うと、逆に怒られるから」
「そ、そうなんだ?」
 はじめと胡紋の関係がどういうものなのか、想像ができそうでできない琴耶はそれで納得するしかなかった。
(柳君、しっかりしてきたなぁ……)
 初めて会った時がウソのように、はじめは見違えた。
 じんわりとした感情が琴耶の中に湧き上がり、自分の手を引っ張っているはじめの姿をまじまじと見つめる。
(きっと、傍に居てくれる人が大切にしてくれてるからだろうな)
 そして傍に居るだろう人物に想いを馳せ、彼なら大丈夫だと勝手に安心した。
(余程のことがない限り、柳君が悲しい想いをすることはないよね)
「あーっ、山吹じゃんっ! きてたのかよ、知らせろって!!」
「仙道!」
「そっか、鷲尾先輩の晴れ姿を見にきたんだろ?」
「う、うん、そうだよ」
「いやあ、鷲尾先輩の卒業はレジェンドだぜ! な、柳?」
「ダ、ダメだよ仙道君。しぃーっ」
「?」
「どうせ後で知ることになるんだったら、オレ達の口から伝えるのが友情ってモンだぜ?」
「だっ、だから、ダメだってば!」
「??」
 琴耶にとって久々の再会となるクラスメイト、仙道勲夫。彼ともメールをやり取りする仲だが、いつも画像添付されたメールを眺めているので「久し振りに会う」という感覚は少ない。
「山吹君に悪いから……」
 意味深に勲夫の言葉を止めようとするはじめは、明らかに琴耶に遠慮している。
「えーと、話が見えないんだけど?」
「気になる? 気になるよなぁ? うんうん、元クラスメイトの親友が教えてやるから、とりあえずこっちこい」
「あっ、ダメだよ。山吹君は僕と一緒に卒業式を見に行くんだからぁ!」
「仕方ないなぁ、じゃ、柳もこいよ。熊谷センセに頼んで、取材者席を作ってもらってんだ」
(仙道と柳君、ずいぶん仲良しになったんだなぁ。良かった)
 騒がしいくらいのやり取りを見て、琴耶は嬉しくて笑みが漏れる。
 だが、はじめが隠したがって勲夫が話したがる、大好きなおにいちゃんの話題が気になった。
(レジェンド……って何?!)




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